前回の続きです。熊野型メバルから逃げたと言うならそれまでですが、どっちみちアカ、シロ、クロも30匹そろえないといけないので、うーん…なんといいますか、ラッキーだったと思います。というのも、ショアからルアーで狙う和歌山のアカメバル、クロメバルについては私の最も得意とする魚種の一つで、自分でいうのはなんですが、アカとクロについては、まぁまぁ自信があったのです!
2021年12月~2022年3月までのハイシーズン。とりあえずシロは後回しにして、アカとクロを狙い撃ちにしました。風、潮位、釣れる時期、アカとクロについては数カ所をランガンして、釣行10回ほどで、どちらも30匹そろえることができました(ドヤァ)。
ちなみにシロについては、「まぁいつでもいいや」って感じで今現在もリミットメイクしておりません(笑)。
アカとクロがある程度数がそろってきた時点で、意を決して高速道を走らせ、何度か熊野型メバルを狙いに行きますが、やはりかすりもしません。
…これはもう私には無理です。確信しました。
頼みの綱の土井さんもこの頃は腰を痛めていたりして、磯歩きはちょっと不安そうです。
ここで私、奥の手に出ます。
そう。ジモチーの力を借ります。地元の剛腕アングラーに頼むということです。
河合先生とも相談し、地元代表として白羽の矢を立てたのは、釣りメーカー数社と契約しており、熊野型メバルを釣りまくっている剛腕ナオフィッシュことナオ君でした。2022年2月に事情を伝えたところ、ひと言目は、いつも通りの少し気だるそうな声で「あー……」という返事。
「あ、ナオ君、こんなん嫌いなんかな?」と思いきや、すぐに「おもしろそうやね」といってくれました(やるんかいw)。なんにせよ強力な助っ人が協力してくれることになりました(笑)。
そしてナオ君は言いました。「せめて4~5年前に言ってくれたらすぐにそろえられたのに…」。うん、それ、みんな思ってるからね(泣)。
私の目に狂いはなく、ナオ君はさすがでした。地元友人の力も借りつつ、2022年2月~2023年春までの1年間で、10匹のサンプルを集めてくれました。やはり実力者です! そしてプリスポーンの個体はさすがにリリースさせてほしいという優しさも兼ね備えた素晴らしいアングラーです。
結果、熊野型メバルのサンプルのほとんどはナオ君とそのご友人の方々のものでした。河合先生は半年ほど南極に行ったりでバタバタだったようですが、その間、今回集まったサンプルのうち数匹を解析して学生さんが論文の作成を進めているとの連絡を受けました。2023年6月のことでした。
夏が過ぎ、秋が深まったころ、私はちょうど土井さんとファミレスで晩御飯を食べながら話していました。「そういえば、あの論文どうなったんでしょうね」と切り出したところ、土井さんは経験上、「順調に行っていれば、そろそろ何かアクションがあるころじゃないですかね?」と教えてくれました。
そして土井さんの言う通り、約1か月後、運命の11月16日。河合先生から連絡がありました。
そう、論文がアクセプトされたという、うれしい知らせでした!
学術的に熊野型メバルの存在を報告する初めての論文です。
それが、、コチラです↓
https://peerj.com/articles/16391/
うん、全然わかんない(笑)。英語だし専門的過ぎてなんのこっちゃですが、
まず今回解析した熊野型メバルのサンプルについては、なんと、なんと、
「熊野型」と「アカ×シロのハイブリッド」の遺伝子型が似ており、統計確率的にアカとシロのハイブリッドっぽいやつ?? ということだったのです! とてもまどろっこしい言い方しかできませんが、とにかくアカ×シロのハイブリッドぽいのではないか? ということです(笑)。
どうですか? ちょっと衝撃でしょう? メバル3種にハイブリッドが存在すること自体あまり一般アングラーの間では知られていないことでしょうし、私自身もびっくりしました。
熊野型メバルは、釣り雑誌とかYouTubeとかで、ずっと「アカメバル」とされていました。実際、体色は赤いし、そう思われるのは仕方ないこと。
しかし、ちょっとメバル好きのアングラー達は、熊野型メバルの胸びれ条数が16だったことから「これは赤っぽいけどクロメバルのへんなやつ」だという仮説を立てていました。実際私もクロの地域個体群じゃないかな? とずっと思っていました。
だって胸びれ条数のことはもちろん、アカメバルは他の2種に比べたら、基本的に小さいですし、25cm超えたら万々歳なのです。それが熊野灘だと楽々30cmを超えてくるのだから、おかしいです。よく見たらアカと熊野型は、色も違いますしね。だから熊野型は、変なクロだと思っていました。
でもね、熊野型はクロとは性質が似てないところも多かったのですよ。クロは朝夕マズメにナブラが立ったり、釣れ出したらバタバタッと数が釣れるのですが、熊野型がマズメ時にナブラ立って数が釣れたという経験は、ほぼなくて、完全に日が暮れてから真っ暗闇が勝負だという感覚でした。そして「マズメは関係ない」というのは、多くの熊野型メバルアングラーが言ってました。
それを裏付けられるんじゃないの? ということが今回分かったようです。どうやら熊野型メバルには、他の3種が持っていない視覚に関する遺伝子があり、より薄暗い場所に適応している可能性があるとのことです。
新月周りの熊野灘のちょっと奥まった磯でメバルを釣ったことがある人は分かるでしょう。まさに一寸先は闇。空を見上げると広がる一面の星空は、冬の凛とした澄み切った空気に包まれます。光害がなく、わずかに漏れる地上の光は空に吸い込まれて消えてしまいそうな包容力。
熊野灘の磯は、本当に光のない闇の世界なのです。こんな中でも普通にクリア系のワームに食ってくるのですから、かなり暗視が利くのだろうと、これはうっすらと予想していました。
さらにこの熊野型メバルは、この地域特有の個体群である可能性があるとのこと。これについては、まだやはりサンプル数が少ないため、熊野灘で釣れるこのタイプのメバルがすべてこの地域特有の個体群だと言い切れず、「可能性がある」という段階です。この記事は私見なので、適当なこと言いますが、可能性は高いと思います。だって釣れるメバル、すべてが同じようなタイプですから。
しかし学者は適当なことは言えません。仮に、もしこれが地域個体群であれば、回遊や繁殖、年齢なども詳しく調べることができるようです。これらの研究に踏み入れるには、やはりサンプル数が必要なので、引き続き苦難の道は続きそうです(笑)。
そしてまだまだ謎は残ります。だって熊野灘の磯でメバルを釣っても「これはいかにもシロ」とか「これは絶対にアカ」というのは釣れないじゃないですか。ほぼすべてが熊野型のでっかいメバルばかりで。
じゃあどうやってハイブリッドが生まれたのか。どっかでシロとアカのハイブリッドの個体群ができて、それが熊野灘に流れ着いて定着し、繁殖を繰り返しているのか。謎すぎて面白いですね。
やはり和歌山の海にはロマンがある。そういった話が和歌山市を中心に発刊されている日刊地方紙「わかやま新報」の一面記事として取り上げられました。
ネットニュースにもなってましたので、リンクを貼っておきます。
いわゆる多くのアングラーの間で謎だった「南紀メバル」の正体に少し近づいてきました。これからの研究がすごく楽しみです!
以上、長くなりましたが、和歌山のメバル事情、これは本当に面白い。メバルって単純に3種に分かれるだけではなさそうです。だって三重県熊野市周辺のでっかいメバルは熊野型とはちょっと違うし、なんなら熊野型メバルについても、串本方面と新宮方面ではちょっと雰囲気が違うという見方もあります。伊豆の尺メバルもちょっと熊野型みたいな見た目だし、他のエリアのメバルにも特有の個体群かもしれないという夢がありますね。
時代と共に海もまた変化しています。2021年の記事ではメバル不毛地帯としていた和歌山の田辺周辺で25cmまでのメバル(種類は不明)がポロポロとアジングのゲストで釣れるようになってきたという話もつい先日聞きました。
私のブログ記事は学術的なものではないので推測で書いたりしてますけど、今後いろいろと解明されていくのが楽しみです。まずは熊野型メバルのサンプルをもっと集めないと。
…ナオ君頑張って(笑)。
おしまい。
この熊野型のニュースを読んだとき、ひろさんが関わってるかも…?とふと思ったら、ほんまに関わってらっしゃってまずそこにびっくりです(笑)
テレビで見る伊豆のメバルも、ひろさん達の投稿でみるメバルも、なんか僕が釣ってるメバルと違うことにはすぐ気付きましたが、ハイブリッドとは。。
にしても小~中型が釣れないのも気になります。大型のみが接岸するのか…?
将来新種として掲載されることがあれば、ネーミングはヒロメバルでお願いしますね!!
>じゅにさん なんかこうしてブログにコメントいただいたりしたら、10年ほど前の記憶がよみがえります。月日が経つのは早いもので、、、(笑)
そうなんです。まさかのハイブリッドの可能性が高いとは、驚きでした。大型ばかり釣れることについても、今後研究が進んでいくかもですね。
名前はクマノメバルでw 南紀メバルはいやだw
ワタシも「南紀メバル」を求めて数年さ迷いましたが、尺フィーバーの頃にメバル熱が冷めて·····。
や、苦行をお疲れ様です!
ナオさんもw
>TATさん TATさんもさまよいましたか(笑)。そうでしたっけ? TATさん、今でこそメッキの人のイメージですが、メバルの人のイメージも強いです、私の中では(笑)。ナオ君はほんと、素晴らしいですね!