身に過ぎた果報は災いの基

お盆休みがほとんど取れないボク。一日だけお休みをいただき、前回の「忘れ得ぬ夏の日」の〝忘れ物〟を取りに、もう一度高知に行ってきた(※今回の記事、文字数が多いので「ですます調ではなく、だである調」になります。ご了承を)。

何を忘れたのか? それは「再現性」だ。釣ったというより釣らせてもらった。そしてその釣り方も教わった通りにしたものの、果たしてそれができていたのかどうか…。というのも、前回反応があったのは1匹だけ。しかも大雨直後のダダ濁りでのチャレンジ。濁りのない条件下でトライしたいという思いも強くあった。

前回に引き続き弾丸ツアーで高知入り。前日夜から当日の昼までといういつものパターンだ。

◇        ◇

初日のナイトゲーム。どこに行っても先行者さまがいる。まぁ、夏休み中の高知ではよくあることだ。なんとか入れたポイントでキャストを開始。ベイトの気配は十分にある。期待を込めて手持ちのルアーを絨毯爆撃するが、反応なし。その後数カ所を巡るも反応なし。

ここで、数日前から高知入りをしていたTOYOさんと合流。TOYOさん、合流する寸前にワンバイトあったようだが、乗せきれなかったよう。いろいろと情報交換もしながら、TOYOさんが前日にベイトまみれだったというところをチェックしたりした。

ここで、はるばる東京からいらしたというアングラーさんと遭遇。この稚拙なブログを読んでいただいているとのことで、何やら恐縮。先日には新潟の方にも読んでいただいているとお聞きしたので、本当に恐縮だ。

話は逸れたが、TOYOさんと別れた後、ちょっと実績場所を偵察。しかしボイルもなく雰囲気的にあまりよくなかったので、少し仮眠を取ることにした。真夏の高知の夜。一日目結果、ノーバイト。

◇        ◇

目覚まし時計が朝まずめを知らせる。眠い――。もうちょっと寝たいという気持ちを奮い立たせ、やや白んできている東の空を見上げながら準備した。

最初に向かったポイント。ストラクチャー周りを攻めるもノーバイト。攻め方は前回と同じような感じ。さらにタナを変えながらいろいろ試したが、反応は得られず。前回の再現性はないのだろうか。

気分を変えて近くにある橋脚をかすめるようにミノーを流し込み、アクションを加えたその瞬間

カツーン!

という金属的なアタリが手元に伝わった。アカメのアタリは金属的とよく聞かされていたので、来たっ! と思ったのだが、これは一瞬重みが伝わったのみで乗せきれず。貴重なワンチャンスを逃してしまった。当たったルアーはデュオのレアリスファングベイト140SR。怪魚用に作られたレアリスであり、今回の秘密兵器として3種類持ち込んだものの一つだ。

これらだ。まずは表層用が2つ、その後のボトム用。ファングベイトは120SRと140SR、それと120DRを仕入れていた。SRには板鉛も有効だろう。

アタリを出せたのは、140SRだった。薄明かりの空に徐々に日が昇ってきた。朝まずめの時合いを不意にするわけにいかない。さまざまなルアーを駆使し、攻め倒したがその後は反応を得られなかった。

ここで昨晩お会いした東京からお越しのアングラーさんと偶然遭遇。お話を伺うと、シーバスを2本釣ったようだが、アカメはまだのようだった。お互い健闘を誓って、次のポイントへ。

◇        ◇

次のポイントに着いた頃には日は完全に上がり、地元の方々が犬の散歩をしたりウォーキングしたりしていた。車を止めてタックルの準備し、ロッドを持って歩いていると、突然、一人のお姉さんから「お兄さん、お兄さん、おはよう!」と呼び止められた。

どうしたんだろうと思ったら、お姉さん、「この前ここで大きな魚を釣った人がいて、私写真を撮ってあげたのよ。見て見て!」と言って、スマホの写真フォルダを見せてくれた。そこには大きなアカメを抱っこしたアングラーさんの姿が。

「この人、大阪から来たって言うてたよ。お兄さんどこから? へー、和歌山から! 頑張ってね!」。

黄色い応援をいただき、ちょっとうれしくなってポイントに向かう。お姉さんは毎朝同じ時間に歩いているとのこと。潮回りは分からないが、時間的には釣れてもおかしくないのかも。

ラインシステムをしっかりとチェックし、ストラクチャー周りでキャストを開始。まず、表層系、次にボトム系のリフト&フォール。どちらもバイトに持ち込めず。次に中層系のミノーでアクションを加えつつ探っていると

ドン!

カツーンではなくドン! 感じ的にはヒラスズキのランカーと同じようなアタリと重み。強めに締めたドラグが引き出されるトルク感。

「きたっっっっ!!!」

一人なのに声が出た。その瞬間、ほぼムーンサルト状態のエラ洗い! もちろん興奮しましたが、なぜか落ち着いている自分がいた。水面での暴れっぷりは、ちょっとヒラスズキのそれとは違う感じ。大暴れしてグングンとラインを出されたが、それはレバーブレーキでいなしつつ、

ランディング成功!

なぜ、落ち着いていたのかは分からないが、「これはバレる」とか、「これは大丈夫」みたいな感覚って、誰にでもあると思う。なぜかこの魚についてはバレないという確信があった。

人生2本目のアカメをゲットできた。そしてポイントは違えども前回の答え合わせもできた。前回とは違った感動があった。

だが、安堵しているのもつかの間。エラの付け根にリアのフックが刺さっており、血が出ているのに気付いた。

「早急にリリースせねば!」。

急いで自分も水中に入って蘇生を図る。

憧れの「水の中でのブツ持ち写真」を撮りたかったのだが、セルフタイマーとかをやってるヒマはない。とにかく最少のダメージでリリースしなければ。だが思った以上に傷は深く、エラ呼吸するたびに水中が血で赤く染まる。ある程度したら血は止まったが、今度は腹を上にして浮いてくる。浮き袋を刺すアイテムなど持っていない(そもそも浮き袋を刺してリリースしたらどうなるのかすら分からない)。

だめだだめだ! フィッシュグリップでアカメの口を開け、引っ張って強制的にエラに酸素を通すが、そうするとまた傷口が開いて血があふれる。

そんなことを繰り返しているうちに、

もはやこの個体は蘇生不可能だと悟った。

やってしまった。

なんとも悲しい気持ちになった。

だが、こうなった以上、このアカメの姿をいろんな形で写真に残したい。露出を変えたり、角度を変えたり、いろんな写真を撮らせてもらった。

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特に、アンダー気味にしてストロボを焚いた次の写真は、ナイトゲームのような雰囲気でありつつも、露出は完璧で、いい遺影になったと思う。

  

「ごめんよ、もっと大きくなれる魚なのになぁ」と自分を責めた。アカメのエラが完全に動かなくなった後、深紅だった目が、すうっと金色に変わっていった。死んでしまったらアカメは「アカメ」ではなくなるのだ。

 

※和歌山県立自然博物館の学芸員さまによると、アカメのように眼(瞳)が赤い生き物の多くは網膜に黒色素がない場合が多く、血液の色がそのまま反映される事が多い。したがって特に血が抜けるような状況で死んでしまうと、瞳も赤い色を失ってしまいやすいとのことだ。

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お命を頂戴してしまったからには、いただいて成仏していただかないとならない。だがしかし、もちろんクーラーボックスなどは持っていない。取り急ぎ近くのコンビニに行き、板氷を4枚購入し、大きめのビニール袋(これは常に車に積んでいる)にアカメを入れた。

釣り上げたのが午前6時台。どうしよう。よく行っているフィッシングハヤシの開店は午前9時。この猛暑で3時間弱はキツイ。

そうだ! 確か横浜に釣具屋(まるかつ釣具)があったはず! 急いで行ったら開いてた! しかし、クーラーは小さい物しか売っていなかった。

仕方ないので氷を買い足して、とりあえずフィッシングハヤシのオープンまで待つことに。くいしんぼ如月桟橋店でチキンナンバンを注文し、朝食を取る。そしてボーッと道のはす向かいを見ているとホームセンターを発見。しかもすでに営業していた!

ホームセンターブリコ桟橋店。営業時間午前6:30~。助かった。。。

ブリコで一番大きな発泡クーラーを購入し、海水と氷を入れて、ホッと一息。アカメを殺めてしまったことと、バタバタしたことで、精神的にどっと疲れ、これ以上釣りを続ける気にはなれず、帰路についた。

◇        ◇

さて、当然の事ながら、ここからがまた一つの思い出になる。

以前、今回のボクと同じように浦戸のアカメをdeadさせて食べたことがある友人に連絡を取ったところ、「めっちゃ臭い。味の濃い料理にしないと食べられたもんじゃない」とのこと。

予想通り。そんな気がする。ただ、この友人がキープせざるを得なかった個体は、小河川のものだったので臭かったのかも。さらに、別の友人は「ラティス(アカメ、バラマンディ、ナイルパーチなど)はおいしい魚」と言っていたことに期待したい。

高知道、徳島道を通りながらずっと、どうやって食べようか考えていた。結論は、まずは敬意を払って刺身で。それでどうしても無理なら味が濃い料理にする。そう決めた。

自分でさばこうとも考えたが、なにせ初めての魚。しかもウロコ飛び散って、部屋がえぐいことになりそう。一晩氷に入れたまま、翌日にプロの手でさばいてもらった。

当ブログでもお馴染み、チーム日高の本拠地ともいえる「味ぐら 山里」に持ち込んだ。

店主もアカメをさばいた経験は、さほど多くはない。興味深かったのが、背中と中骨の間がかなり離れており(サケのような感じ)、骨に沿って包丁を入れるのが難しいということ。ここは、シーバスやチヌなどと大きく異なると思った。背中の身が途中で割れるのはシーバスと同じだ。ちなみに胃の内容物は何もなかった。

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お造りが完成。しっかりと盛り付けていただいた。

いただきます。

醤油を少なめに。ワサビは付けず。

素材そのものの味を確かめるため。

バラエティ番組「世界の果てまでイッテQ!」のイモトがヘビを食べるくらいの勢いで、口に入れた。そしてじっくりと味わったのだが、、

美味い!

甘みがあり癖はまったくない。ボク的には完全にハタ系の刺身である印象。

その後、自宅で鍋、天ぷら、あら炊きと試してみたが、中型のハタ類に負けず劣らず美味だった。

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どうやら個体差があるようで、友人が言っていた臭みというものは全くなかった。

正直、ヒラスズキより、はるかに美味しかった。

これなら残すことなく食べてしまえる。少しだけ、救われた気がした。

(あとがき)

高知県が定める注目種アカメ。キャッチ&リリースを推奨し、無用な殺傷も控えるよう、県はそうお願いしている。だから二度とキープはしない心づもりである。

「アカメは美味しかった」――。この事実は隠さないが、ボクはこの記事によって希少種の「キャッチ&イート」を推奨している訳ではない。当然だが、今回のように蘇生不可能な深傷を負わせてしまったら、無用な殺傷にならないよう、食べて供養するというのが最良の選択肢ではないだろうかと訴えたいのだ。

もちろん、いい気はしなかった。2匹目のアカメを釣ったというところでこの記事を終わらせておいてもよかったのだが、自分への戒めという意味も込めて、ありのまま書いた。

高知県の皆様、県の自然を代表する魚を殺してしまって申し訳ございませんでした。