昔むかし、あるところに、雨地蔵さまと呼ばれる営業マンがいたそうな。

 

雨地蔵さまは、学生時代に、あめのうおという魚の生態を調査しておりましたが、

 

そういう知識を一切捨てて一般企業の営業マンになったそうじゃ。

 

 

雨地蔵さまは、自分が外出するたびに雨が降り、

 

特に週末になると雨を降らしてしまうので

 

仲間の釣り人からも「雨地蔵さま、いいかげんにしてくだせぇ」といつも怒られる始末。

 

しかし雨地蔵さま本人すらも、どうすることもできないので、

 

釣りに行く時はいつもどしゃ降りなのじゃ。

 

そんなある日、

 

雨地蔵さまは村人のひろを連れて、大好きなあめのうおを釣りに行こうと誘ったのじゃ。

 

まずは幻の「海あめのうお」（のぼり）というものを釣りに行ったのじゃが、

 

雨地蔵さまの力で、雨に加えてビュービューと風も吹いておる。

 

そんな中、雨地蔵さまの疑似餌に魚が食らいついたのじゃ。

 

「ま、まさか、海あめのうおかのぅ～」。

 

ひろは、ほんのほんの少しだけ期待を抱いて雨地蔵さまの方に駆け寄ったのじゃが

 

釣れたのは

 

 

うぐい。

 

 

「･･･雨地蔵さま。いきなりオチを出したら、あとが続きませぬぞ」

 

村人ひろは、このあとの釣行を心配したんだとさ。

 

海あめのうおなどという幻に、いつまでも貴重な朝まずめを費やすわけにはいかない二人は、

 

すぐにあきらめて、山の中に、ほんものの、あめのうおを釣りに行ったのじゃ。

 

 

あめのうおは、その名の通り、雨が大好き。

 

雨地蔵さまと相性ぴったりの魚じゃ。

 

山の中では、雨地蔵さまが餌釣りで、ひろは疑似餌であめのうおを狙ったのじゃ。

 

最初の渕で、雨地蔵さまの餌に魚が掛かったぞよ。

 

釣れたのは

 

 

あぶらはや。

 

 

適度に小ネタを挟む雨地蔵さま。

 

さらに山の奥に進んでいき、

 

またも雨地蔵さまの餌に魚が掛かったのじゃ。

 

釣れたのは

 

 

小さな小さな、本当に小さな、かわいい、あめのうおの赤ちゃん。

 

 

さて。あめのうおじゃが、ひろの疑似餌を追い掛けてくることもない。

 

「雨地蔵さまのおかげで、雨も降ってるのに、釣れないのぅ」

 

でも、それもそのはず。前日には都会モンで名人のでぃーけーどんが

 

たくさん釣ったあとだったのじゃ。

 

雨地蔵さまとひろは、めげずにどんどんと沢をのぼる。

 

そしてのっぺりと広がる渕で、ひろの疑似餌を追い掛けてくる黒い影が見えたのじゃ。

 

 

「あめのうおじゃ！」。

 

 

ひろは俄然やる気が出た。

 

でも、あめのうおは一回でも疑似餌と分かると、次からはプイッと横を向いてしまうのじゃ。

 

早めにこの渕に見切りをつけて次の渕へ。

 

ここでやっとひろの疑似餌に魚が食いついたのじゃ。

 

釣れたのは

 

 

雨地蔵さまよりは大きな、あめのうお。

 

 

「あ、あめのうおじゃあ」とひろは大喜び。

 

「雨地蔵さま、どうかこれからもあめのうおが釣れるよう、恵みの雨をふらせてください」

 

この日、唯一のまともな獲物となったので、

 

ひろは、あめのうおを雨地蔵さまに献げたのじゃ。

 

帰りの車。

 

眠気と疲れで意識もうろうとなったひろは

 

運転していた雨地蔵さまのお声を聞いておる。

 

でもありがたいお声は右から左で

 

何も覚えていないのじゃった。

 

ただ、薄れていく意識の中で聞こえてきたのは、

 

 

「どうせならもっともっと、情けない釣りをしたかったなぁ」

 

 

というせりふだったということじゃ。

 

おしまい。

 

 

追伸。

 

雨地蔵さまはその後、海に出て、えそを爆釣。たちうおではボウズ。

 

ひろは両方ともボウズをくらったとさ。